昨秋、笹山からの縦走を図った笊ヶ岳。しかしそのときは悪天候により伝付峠で撤退となった。
新緑と残雪の共演を楽しみに、初夏であるこの時期に改めて笊ヶ岳の頂を踏む計画を決行した。
目当ての笊ヶ岳頂上から見る絶景はもちろんのこと、池ノ平や所ノ沢越など清流に抱かれたオアシス、赤崩をはじめとした迫力の大崩壊地、生木割山の神秘的な森と、歩いてみれば印象的な場所がたくさんあった。
山深い南アルプスの真髄を味わった 2 日間を振り返る。
相変わらず長い静岡市街地から沼平ゲートまでの運転を経て、そこから歩いて青薙山登山口から入山。
700mの急斜面をなんとか登って、池ノ平へ。突然現れる平坦地は、水も出ており幕営に最適の場所という印象。
新緑が美しく、ここで一泊もしてみたい。今回はまだ先を目指す。
赤崩。
林道東俣線を歩きながらこの巨大な崩壊地を見上げたことはあるが、真横から見ると圧巻のスケールだった。
赤崩の縁から見る対岸の主稜線。残雪と新緑のグラデーションが美しい。
そして谷が深い。
崩壊地の真横に登山道が付けられていて恐ろしい。
きっといつかここも崩れてなくなってしまうんだろう。
それが今日でないことを祈りながら歩いた。
登山口から約 1,500m 登ってようやくたどり着いた青薙山。ここまでが長かった。特に展望はない地味な山だが、立派に標柱が立つ。
青薙山付近から白峰南嶺の北側に続く尾根を望む。
右奥に見える丸く大きな山が布引山で、その左奥の双耳峰が今回の目的地である笊ヶ岳。
左奥は生木割山で、今回の山行で通るラストピークとなる予定。
聖岳・赤石岳・荒川岳と南アルプス南部の主役級が連なる。
鞍部付近から青薙山を振り返る。
白峰南嶺の最南部にある地味な山だが、こう見ると十分に立派な山だ。
登りごたえも十分に立派だった。
稲又山を過ぎて、今日の幕営地である所ノ沢越を目指す。
かなり疲労しているが、あと少しだ。
所ノ沢越から数分下ったところにある沢沿いの平坦地が今日の寝床になる。
テント 3〜4 張はいける平らな場所と、その真横には水量豊富な小川が流れる好立地。
あまりに疲労困憊でこの素晴らしいロケーションに浸る余裕もなく寝てしまったのが悔やまれる。
翌朝、布引山を登りながら後ろを見ると、朝日に浮かぶ青笹山が見えた。
昨日その頂を踏んだ青薙山と隣り合う青笹山だが、その間には青薙崩と呼ばれる崩壊地があり、そこはもはや通行できないとされている。
近くて遠い山。
布引山の直下は崩壊地の横に道がある。激しい急登。
この崩落地が今いる場所からいきなり大きく崩れたりしなければ、危険箇所はない。
白峰南嶺の南部の尾根はこんな場所が多い。
ようやく辿り着いた布引山。
笊ヶ岳に気を取られて前衛のこの山がここまでハードであることは気にしていなかっただけに、この登りはひどく参った。
布引山から笊ヶ岳の間にも登り返しがあるが、所ノ沢越から布引山の延々と続く登りに比べれば気楽に歩くことができた。
苔の美しい森に目を向ける余裕がある。
そして念願の笊ヶ岳の頂上に立つことができた。
抜群の天気。ハイマツが茂り、頂上付近のほんのわずかな範囲だけが森林限界を越えているようだ。
新緑と残雪の共演、聖岳・赤石岳・荒川岳の迫力。
笊ヶ岳の頂上はこの付近では唯一 360°に展望のある山で、南アルプス主稜線がとてもよく見える。
向こうに見える主稜線の山に登ってもこの景色を眺めることはできないだけに、この風景に出会えることは白峰南嶺の醍醐味と言える。
空を広く入れて撮ってみる。
2日間、本当によく晴れてくれた。それだけでこの週末に来れたことを感謝した。
北側の風景も抜群にいい。
手前の山が生木割山で、奥には塩見岳や仙丈ヶ岳、間ノ岳、農鳥岳、北岳と、南アルプス北部の主役級たちが連なる。
笊ヶ岳の頂上で、登頂の感慨に浸ったあとは、名残惜しいが先を目指す。
生木割方面へと延びる道で出会った美しい森に癒される。
生木割山の頂上直下にある崩壊地も展望がよく、さっきまでいた笊ヶ岳の姿がよく見えた。
今回の行程で、笊ヶ岳の姿がもっともよく見えたのがこの場所だった。
最後の登り返しを経て生木割山。山頂にはケーブルテレビのアンテナがある。
笊ヶ岳からの登り返しは堪えたが、ここまで来ればようやくあとは下るだけだ。
生木割山からは椹島に直接通じる道があり、一般登山道ではないものの、山頂のケーブルテレビの配線を通すために使ったといわれる道で、今回はその踏み跡を辿った。
ここを通ることで、笊ヶ岳から椹島に下りるルート上にある危険なトラバース道を避けた形だ。
途中、突如として現れる平坦な場所は別天地のようで、不思議な気分にさせられる。
緑が鮮やかな椹島に辿り着いた。ここの自販機で購入した冷たいコーラを飲んで疲労を癒す。
今回はロッジが工事関係者の宿泊で埋まっているとのことで予約が取れず、沼平まで 17km の道のりを歩くはずだったが....
なんと、椹島から沼平に用事があるということで車を走らせていた工事関係の方が我々をピックアップしてくれ、沼平まで送り届けてくれた。
なんということだ。明るい時間に帰ってくることができてしまい、魔法がかかったような気分だった。
最後は思いがけない出来事で幕を閉じた笊ヶ岳登山。きっとこの山行は思い出に残り続けるだろう。