黒法師岳

2026.05.15 - 2026.05.17

5 月下旬、春が深まり初夏の空気も漂い始めた南アルプス深南部へ。この時期になると行きたくなるのがこの山域。
寸又峡温泉を起点に、大沢山から入山し、山犬段、蕎麦粒山、バラ谷の頭、黒法師岳、前黒法師岳を経て再び寸又峡温泉に下山する時計回りの周回コース。
深い森、藪漕ぎ、ひやっとするやせ尾根、その日の判断で自由に決める幕営地点と、南アルプス深南部の真髄すべてが詰まった体験だった。

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寸又峡温泉から入山する。
切り立つような高い山々に囲まれた、山奥にある秘境。

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寸又峡を三角形に囲むようにある寸又三山の一角である沢口山をまずは目指す。
明るい新緑の登山道を淡々と歩き、一気に標高を上げる。まだ初日の朝なので体は元気。

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気づけば 1000m 近くも標高を上げ、沢口山に到着。

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沢口山の山頂は樹林に囲まれているが、少し外れたところに北東方向がひらけた展望台がある。
手前の三角形の山は寸又三山のひとつである朝日岳で、その奥の一番高い山が大無間山。いつかは行ってみたい大無間山。

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さらに沢口山の奥に向かって縦走を続け、天水という名前のピークに出ると、北側の風景がバッと開ける。
谷を挟んで向こう側には、明日から明後日にかけて歩く山々が見える。
黒法師岳のピラミダルな山容が印象的だった。

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ほどよく風も抜けて、爽やかな原生樹林。

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樹林帯を抜けて巨大な人工物が見えたと思ったら、大きく崩壊した斜面を保護した法面が現れた。八丁段の山体。

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ここからしばらく林道を歩き、山犬段を目指す。
フラットで歩きやすくはあるものの、アスファルトは足に負担がかかっているのがわかる。ふかふかの土の登山道が恋しくなった。

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山犬段の広場に出た。
奥に見えるのは山犬段休憩舎で、中はとても広く清潔にされていた。
数年前までは、ここまでマイカーで乗り入れることができたのだそう。現在は専用の相乗りタクシーを予約する必要がある。

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蕎麦粒山を目指す。
寸又峡から歩いてここまで体力をそれなりに消耗していたので、ゆるやかな登りだが足が重かった。

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蕎麦粒山。
ここから高塚山に抜けることもできるが、今回は三ツ合山方面に歩みを進める。

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三ツ合山に向かうところで、笹が出てきた。まだ膝下で浅い。
いよいよ南アルプス深南部らしい風景になってきた。

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三ツ合山頂上を初日の幕営地として計画していたが、まだ時間があったのでもう少し先へ進むことにした。
ここから千石平を目指すが、ここが途端に険しいやせ尾根の道に変わった。
すでに体力を消耗した後半に通過するのは少し怖かった。

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日没前に千石平に到着し、ここを初日の幕営地点とした。
千石 "平" というだけあって地形は平坦なのだが、低い笹が一面を覆っていてテントを張るのにやや難儀する。
また、鹿のふんがいたるところに散乱しており、それも避けたくて幕営地点が定まるまでしばらくウロウロした。
午後から雲が増えてこの付近も霧に包まれたが、雨に降られることはなかった。

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2 日目、日の出と同時に歩き始める。
鋸山の尾根もやせ尾根注意の情報があったが、昨日の三ツ合山と千石平の間の区間に比べればまったく危険を感じる場所はなかった。

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バラ谷の頭の方向を目指す。

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朝日に照らされ、黄金色に輝く森。
房小山、バラ谷の頭、黒法師岳の並びが見えた。

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時間帯も相まって、このあたりの雰囲気は本当によかった。

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しばらく深まる笹薮を歩いていき、バラ谷の頭を正面に捉えた。

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立ち枯れの夫婦木。巻雲が広がる濃紺の青空とのコントラストが美しい。

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レインパンツは山と道 UL All-weather Pants、シューズは Vivobarefoot Tracker II FG。
パンツは抜けがよくてまったく蒸れる感じはしないし、シューズも重くないのに完全防水で浸水しない。
朝露に濡れた笹薮歩きがまったく苦痛じゃないどころか、ひんやりして気持ちよかった。

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バラ谷の頭は、日本最南にある標高 2000m の地。

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バラ谷の頭から望む、東の方向。
手前の山は麻布山と前黒法師山。あの尾根を通ってこのバラ谷の頭まで来るルートもある。
というか、登山者数としてはそちらからのアプローチの方が多いと思われる。
左奥には恵那山、右奥には残雪の光る御嶽山。

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バラ谷の頭から、笹薮の急斜面を下りて黒法師岳の取り付きを目指す。
これぞ南アルプス深南部という風景。

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黒法師岳の直下まで来た。
その頂上は見上げるような高さにある。
そして、その頂上に向かってほぼ真っ直ぐにのびる直登の登山道。
しかも、そこは背丈に近い笹薮が待ち受けている。

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下から見上げるだけだとどんなもんか分かりづらかったが、実際に歩いてみるとこの笹薮の急登はすさまじい。
ただ、笹に覆われているだけで踏み跡自体はついているので迷うことはないのと、笹を掴みながらよじ登れるので足への疲労は抑えられた。

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激薮の急登を乗り越えて、念願の黒法師岳頂上に立つことができた。
頂上は広くなっているが、ここにも笹薮が全体を覆っているので、実際に立てるスペースは笹が刈り払われている一部のみ。
ここから丸盆岳を往復するかしばし悩んだが、もう十分満足した気持ちに正直になってそちらには行かず、幕営地のヘリポートを目指すことにした。

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笹薮が膝丈ほどの高さに落ち着いたところまで下降して、黒法師岳を振り返る。
黒法師岳の東面も笹薮が茂っているのと、こちらは踏み跡が不明瞭なのでしょっちゅうロストした。
そのたびに激薮を漕ぎながらのトラバースを強いられる。これぞ深南部という体験だった。

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しばらく歩くと、突如として視界が開ける。ヘリポート(跡)に到着。
今日は丸盆岳を飛ばしたことで、右奥に見える前黒法師岳まで行けたらいこうと考えていたが、こんな別天地のような場所を前にして素通りなんてできなかった。

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というわけで、だいぶ時間を余してヘリポートに幕営。
今夜と明日の分の水を汲んで、盛大に昼寝。テント張って昼寝をしたのなんて久しぶり。
日没前のギリギリまで歩くスタイルが通例化していたので、テント泊登山の醍醐味ってこれだったよなと、大事なことを思い出した昼下がりだった。

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ヘリポートでのキャンプを満喫して、翌朝は 4 時に出発。
最初に前黒法師岳への登り返しはあるが、その後はずっと下りなので気持ちは楽だった。
延々と下るというのも、案外疲れるものなのだが。

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まだ日の出間もない時間帯のうちに、前黒法師岳に登頂。
昨日はヘリポートでゆっくり過ごせたことで、体力は全回復しており、体力の消耗をほとんど感じない登り返しだった。

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実は Vivobarefoot Tracker II FG を 2 泊 3 日の山行に持ち出したのは今回が初めて。
ハイカットのベアフットシューズで 3 日間も歩いたらさすがに足が疲れたり、どこか痛むんじゃないかと懸念していたが、それは杞憂に終わった。
森林限界の岩稜帯は今回歩いていないが、樹林帯基調のトレイルを長く歩く場面ではこれ以上の選択肢はないだろう。
よく雑に足を捌いて足首を捻っている自分には、むしろハイカットシューズが合理的だったかもしれない。

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かなり標高を下げたが、下部も美しい原生森に覆われている。

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驚いたのはこれ、湯山集落跡。
たしかに石垣がいたるところに残っていたが、まだまだ寸又峡の登山口までは数百メートルの標高差がある。
こんなところに一軒どころか集落があったなんて、にわかに信じられない。
昔の人が自然と共存する力はすさまじい。

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無事に登山道を歩き終え、寸又峡エリアに帰還した。
コバルトブルーの大間ダム湖にかかる「夢のつり橋」には、朝早くから観光客が訪れている。
10 年以上前、このつり橋を1 人の観光客として訪れた際に「前黒法師岳登山口方面」のように書かれた看板を見て、次に寸又峡に来る時がこの山に登る時になるとは、思ってもみなかったな。

ー以上ー